第31回 遺伝子研究から生まれた育毛剤は?

質問
 最近は男性型脱毛に対し、遺伝子レベルでの研究が進んでいるようで、これらに対応した育毛剤・発毛剤もいくつか新発売されていると聞きましたがどんなものでしょうか?男性型脱毛で抜け毛が多い人とそうでない人では、遺伝子的に何が違うのでしょうか?
(長野県 K.T雄 32歳)

回答
 男性型脱毛で抜け毛が多く脱毛の進んだ人と、そうでない人の違いは何か?と、遺伝子レベルでの解明に着手して話題になっているのはライオン株式会社と徳島大学医学部です。
両者の共同研究によると、遺伝子発現解析技術(DNAアレイ解析装置)を用い、男性型脱毛の進んだ人とそうでない人の培養した細胞から遺伝子1185種を抽出して解析したところ、106種の遺伝子に発現量の違いがあることが分かったのです。 男性型脱毛の進んだ人では、特にBMP(Bone Morphogenetic Protein:骨形成促進因子)とエフリン(ephrin:血管新生誘導因子)というたんぱく質をつくる遺伝子の働きが弱くなっており 、BMPは通常の4%、エフリンは1%まで低下していたということから、これらの遺伝子が作るたんぱく質を毛母細胞のモデル培養系に添加してみたところ、細胞の増殖が促進されたことから、 BMPとエフリンが男性型脱毛に関わる「発毛促進シグナル」であることが確認され、一方脱毛を促進する「TGF−β」(transforming growth factor-β:形質転換成長因子)や「NT−4」(neurotrophin:NT:神経栄養因子)の増加によりヘアサイクルを休止期に誘導する「脱毛シグナル」があることも確認され 、世界で初めての遺伝子レベルでの発毛メカニズムを解明し、次にBMPとエフリンを活性化させる複数の物質を調べたところ、植物成長促進物質(核酸系アミン化合物)である「サイトプリン」(6・ベンジルアミノプリン)にそれらの働きがあることを確認し、毛乳頭細胞にサイトプリンを加えると、脱毛している部分で低下していたBMPとエフリンの遺伝子発現が増加して働きが活発になり、TGF−βやNT−4が出す脱毛シグナルも遮断抑制する作用があり、短縮されたヘアサイクルを正常な状態に回復させることが示唆されたことから、「第26回日本基礎老化学会」で発表し、このサイトプリンに同社の発毛エネルギー成分「ペンタデカン酸グリセリド」、血行促進成分の「ビタミンE誘導体」を添加して「薬用毛髪力INNOVATE(イノベート)」として発売が開始されました。
しかし、これらが発表された時の新聞広告を見ると、髪の毛の専門家たちが開発したものであるにもかかわらず、髪の毛の生えている図には毛が1本ずつしか書いてなく、頭の場合には一つの毛穴から2、3本生えている毛群があることを知らないで広告している点には疑問が残ります。
(全理連中央講師 板羽忠徳)

参考資料
 男性型脱毛の詳細なメカニズムを遺伝子レベルで解明する研究が続けられ、遺伝子治療が期待される昨今ですが、実用化には、あと10年位はかかるだろう言われています。
●6・ベンジルアミノプリン配合の育毛剤 
  6・ベンジルアミノプリンを添加した発毛・育毛剤 は、ライオンの他にクオレ化粧品の薬用クオレサイトプラインEX、三省製薬の薬用育毛剤CTP、武田薬品工業のグロヴィスGXなどがすでに発売されています。
TGF−β (形質転換成長因子)
資生堂と国立精神神経研究所は、男性ホルモンによって増えるたんぱく質TGF−β2がアポトーシス(細胞死)を招く酵素カスパーゼを活発にすることから、遺伝子解析手法を用い、カスパーゼ9とカスパーゼ3が働いていることを突き止め、毛包細胞のアポトーシス連鎖の道筋を明らかにし、500種類の生薬から、この働きを抑制する成分を探したところ、ユキノシタ科のアマチャ(甘茶)とマメ科のソフォラの抽出液がTGF−β2を強く抑制し、カスパーゼ9、3の抑制にはユリアニア科植物から抽出したクアチャララーテエキスが有効であることを検証し、「薬用不老林ライブアクト」「バイタライザーシッケンBL」として発売しています。
●t−フラバノン
花王は、2000種あまりの動植物エキスを調べ、西洋オトギリ草に含まれる成分「アスチルビン」に、高い育毛効果があることを見出し、さらに研究を重ね、新規有効成分「t-フラバノン」(トランス-3,4-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノン)を開発。これを配合した「薬用フラバサイト」を発売しています。

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